年末調整は、経理や総務の担当者にとって年に一度の大きな作業です。
解説記事の多くは控除の種類や記入方法を説明していますが、担当者が実際に知りたいのは「自分はどこまでやるのか」「いつ何を始めればいいのか」という段取りのほうではないでしょうか。
この記事では、法人経理の実務経験をもとに、年末調整で担当者が担う作業とスケジュール、書類回収の進め方を整理します。
※控除の可否、扶養親族の判定、税額の計算など、個別具体的な判断については、税理士などの専門家や所轄の税務署へご確認ください。取扱いは年度によって変わることがあるため、最新情報は国税庁の公表資料をご確認ください。
2026年(令和8年分)の注意:基礎控除や給与所得控除、扶養親族等の所得要件などに改正があります。使用する申告書や給与計算ソフトが令和8年分に対応していることを確認し、具体的な取扱いは国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」をご確認ください。
担当者は制度判断を抱え込まず、段取りと一次確認を担う
年末調整では、その年の制度変更を確認する必要があります。ただし、社内担当者が個別の控除要件や税額について、すべて自分で判断する必要があるとは限りません。
顧問税理士や税理士事務所へ年末調整を依頼している場合は、最初に依頼範囲を確認しましょう。
計算や個別判断まで依頼している場合でも、社内担当者には、従業員への案内、書類回収、不備の一次確認、給与データの準備、未提出者への連絡などの作業が残ります。
また、従業員の家族状況や前職の有無など、会社側でなければ把握できない情報もあります。
担当者の役割は、制度判断を抱え込むことではなく、必要な情報を期限までに揃え、判断が必要な事項を依頼先へ確認できる状態にすることです。
- 税理士事務所へ依頼している場合:依頼範囲を確認し、資料回収と一次確認を進める
- 自社で処理する場合:最新資料と使用ソフトを確認し、判断に迷う内容は専門家や税務署へ確認する
年末調整のスケジュール
給与の締日や支給日、税理士事務所へ依頼するかどうかによって前後しますが、おおむね次の流れになります。
| 時期 | 主な作業 |
|---|---|
| 10月ごろ | その年の変更点を確認する。依頼先がある場合は、依頼範囲、必要書類、提出期限をすり合わせる |
| 11月上旬 | 従業員へ案内し、書類の配布または電子申告の受付を開始する |
| 11月中旬 | 提出期限を設定して回収を進める |
| 11月下旬 | 未提出者への催促、記入漏れや添付漏れの差し戻しを行う |
| 12月 | 給与計算ソフトへの反映、年末調整の計算、給与への反映を行う |
| 12月から翌年1月 | 源泉徴収票の交付、法定調書や給与支払報告書などの作成・提出を行う |
実務上は、12月給与の締日、給与計算日、税理士事務所への資料提出日から逆算して、従業員の提出期限を決めます。
11月半ばは一つの目安ですが、給与の締日が早い会社や、確認に時間がかかる会社では、11月上旬など早めの期限設定が必要です。
提出期限を決める際は、不備の差し戻しや未提出者への催促に必要な日数も確保しましょう。
書類回収を早く終わらせるために
年末調整で時間を取られるのは、計算そのものだけでなく、従業員からの書類回収です。
従業員から集める書類には、控除証明書や前職の源泉徴収票など、本人から提出してもらわなければ確認できないものが含まれます。
そのため、次の点を最初に決めておきます。
- 提出期限を「11月○日まで」のように具体的な日付で示す
- 誰に何を提出してもらうのかを一覧にする
- 受領状況が一目で分かる状態にする
- 不備があった場合の差し戻し方法を決める
- 判断に迷う内容の確認先を決める
特に受領状況の可視化は重要です。誰が何を提出していないのか分からなければ、適切に催促できません。
「提出済み」「一部不足」「差し戻し中」「未提出」などの状態を一覧で管理すると、担当者が変わっても進捗を把握しやすくなります。
中途入社者は前職の源泉徴収票を早めに確認する
年の途中で入社した従業員について、前職分の給与を含めて年末調整を行う場合は、前職の源泉徴収票による確認が必要になります。
前職の源泉徴収票が提出されていない場合は、早い段階で本人へ状況を確認します。再発行が必要になると時間がかかる可能性があるため、年末調整書類の回収開始を待たずに確認してもよい項目です。
詳しくは、国税庁「年末調整の対象となる給与」をご確認ください。
電子化すると何が変わるか
年末調整の申告を電子化すると、紙で回収する場合とは作業の性質が変わります。
電子化のメリット
- 提出された内容を確認しやすい:紙の束を一枚ずつ確認する作業を減らせる
- 差し戻しを行いやすい:離れた事業所の従業員にも速やかに連絡できる
- 提出状況を集計しやすい:未提出者や差し戻し中の従業員を一覧で把握できる
- 前年の内容と比較しやすい:対応システムでは、前年との差異を確認しやすくなる
前年との比較は、実務上とても役立ちます。
たとえば、昨年は申告されていた項目が今年は入っていない場合、その差に早く気づけます。本人へ確認した結果、控除証明書を紛失しており、再発行が必要だったと分かるケースもあります。
再発行には時間がかかる場合があります。すべての書類が揃ってから気づくと期限に間に合わない可能性があるため、前年との差を早い段階で確認することが、結果的に締切を守ることにつながります。
国税庁も、控除証明書等データを利用した年末調整手続の電子化について案内しています。詳しくは、国税庁「年末調整手続の電子化に向けた取組について」をご確認ください。
電子化の落とし穴
一方で、システムを導入しただけですべての確認が不要になるわけではありません。
システムは入力漏れや形式上の不整合を知らせてくれる場合がありますが、対応する確認内容や機能は製品によって異なります。
また、その従業員の状況が前年から変わっていないか、本人が申告自体を忘れていないかなど、システムだけでは把握できない情報もあります。
これは会計ソフトの自動仕訳やカード連携と同じ構図です。自動化によって入力作業は減らせますが、元になる情報が正しいか、前年との違いに理由があるかという確認は残ります。
電子でも紙でも、一人ひとりの状況確認は必要
電子と紙のどちらを利用する場合でも、従業員ごとの提出状況や前年からの変化を確認する必要があります。
確認しておきたい主な観点は次のとおりです。
- 前年と比べて申告内容が変わっていないか
- 変わっている場合、その理由を確認できているか
- その年に入社・退職した人の確認が漏れていないか
- 中途入社者の前職の源泉徴収票が提出されているか
- 必要な添付書類が揃っているか
- 未提出の人が残っていないか
- 個別判断が必要な事項を依頼先へ共有したか
前年と内容が異なるからといって、誤りとは限りません。家族構成、保険契約、住宅ローンなどの状況が変わっている可能性があります。
担当者は、差があることを理由に控除の可否を独自に決めるのではなく、本人への確認や、税理士などの専門家への相談が必要な事項を早く見つけることが重要です。
年末調整が終わった後の事務
年末調整は、税額を計算して給与へ反映したら終わりではありません。その後も、従業員への交付や行政機関への提出などが続きます。
- 源泉徴収票の従業員への交付
- 税務署へ提出する法定調書や法定調書合計表の作成・提出
- 市区町村へ提出する給与支払報告書の作成・提出
- 源泉所得税および復興特別所得税の納付
源泉所得税の納期限は、納期の特例を利用しているかどうかなどによって異なります。自社に適用される期限を確認して処理します。
年末調整結果と法定調書作成機能が連携しているソフトでは、提出書類の作成や、税務署への提出対象者の抽出を補助できる場合があります。
ただし、対応機能はソフトや契約プランによって異なります。また、従業員情報や区分の設定が誤っていれば、抽出結果も正しくなりません。
税務署へ提出する源泉徴収票と、市区町村へ提出する給与支払報告書では、提出範囲が異なります。ソフトの判定だけで完了とせず、国税庁や提出先市区町村の案内と照合して最終確認します。
詳しくは、国税庁「給与所得の源泉徴収票の提出範囲と提出枚数等」をご確認ください。
源泉徴収票を電子交付する場合の注意点
源泉徴収票は、一定の要件を満たせば電子交付できるため、印刷や手渡しの作業を減らせます。
ただし、電子交付を行う場合は、原則として従業員へ利用する方法などを示し、承諾を得るなどの対応が必要です。また、電子交付後であっても、従業員から書面での交付を求められた場合は対応が必要です。
詳しくは、国税庁「源泉徴収票等の電子交付に係るQ&A」をご確認ください。
年末調整チェックリスト
- 自社で行うか、税理士事務所へ依頼するかを確認した
- 依頼する場合は、計算、確認、提出などの依頼範囲を確認した
- その年の制度変更と使用する申告書を確認した
- 給与計算ソフトが対象年分に対応していることを確認した
- 12月給与の締日などから作業日程を逆算した
- 従業員への案内を作成した
- 提出期限を具体的な日付で示した
- 提出が必要な人の一覧を作成した
- 受領状況を一覧で管理している
- 未提出者へ催促した
- 記入漏れや添付漏れの差し戻し方法を決めた
- 前年の申告内容と比較した
- 差がある場合は本人へ状況を確認した
- 中途入社者の前職の源泉徴収票を確認した
- 入社・退職した人について確認漏れがないか見直した
- 個別判断が必要な事項を依頼先へ共有した
- 給与計算ソフトへ反映した
- 12月の給与計算に間に合う日程を確保した
- 源泉徴収票を従業員へ交付した
- 税務署へ提出する書類と提出対象を確認した
- 給与支払報告書の提出先と対象者を確認した
- 源泉所得税の納期限を確認した
まとめ
年末調整で社内担当者が担う中心的な役割は、従業員への案内、資料回収、不備の一次確認、未提出者への連絡などの段取りです。
税理士事務所へ依頼している場合でも、資料集めだけでよいとは限りません。計算、個別判断、提出など、どこまで依頼しているかを最初に確認しましょう。
作業を圧迫しやすいのは、書類の回収と不備への対応です。12月給与の締日などから提出期限を逆算し、誰が何を提出していないのか分かる状態を作っておくことが重要です。
電子化すると、提出状況の確認や差し戻し、前年との比較を行いやすくなります。ただし、システムが示した箇所だけを確認すればよいわけではありません。
方法が電子に変わっても、従業員ごとの状況を確認し、判断が必要な事項を早めに専門家へ共有するという担当者の役割は残ります。
