月次決算が遅れる原因の多くは、経理担当者の作業速度ではありません。処理に必要な資料が、そもそも手元に集まらないことです。
実務で特に苦労するのが、役員が使用したカードのレシートと、取引先からの支払請求書です。どちらも「提出期限を決めて守ってもらう」という方法だけでは、うまくいかない場面が多くあります。
この記事では、法人経理の実務経験をもとに、資料が集まらない原因と、経理側で状況を把握するための仕組みの作り方を解説します。
※会社の規模、取引内容、社内体制などによって適した方法は異なります。個別の税務判断や、電子帳簿保存法への具体的な対応可否については、税理士などの専門家や所轄の税務署へご確認ください。
資料が集まらないと月次決算は止まる
経理担当者が入力できる状態にあっても、元になる資料が届かなければ処理は進みません。
特に費用に関する資料が届かない場合、その支出は計上されないまま月次決算が確定してしまいます。後から資料が届けば、過去月を修正するか、当月にまとめて計上することになり、いずれにしても月次の数字が実態からずれます。
資料の遅れが月次決算に与える影響は、次のとおりです。
- 費用の計上漏れが発生する
- 過去月の修正が必要になる
- 特定の月に費用が偏り、月次比較の意味が薄れる
- 予算と実績の比較が正確に行えない
- 支払遅延が起き、取引先との関係に影響する
月次決算全体の流れについては、法人経理の月次決算の進め方|締め作業の手順とチェックリストで解説しています。
特に集まりにくい2つの資料
役員が使用したカードのレシート
法人カードの利用分は、カード会社の明細を見れば、利用日、金額、利用先を確認できます。しかし明細だけでは、その支出が何のためのものだったのかまでは判断できません。
内容を確認できる資料はレシートですが、レシートの現物は使用した本人しか持っていません。
役員は外出や会食の機会が多く、経費の使用頻度も高い一方で、経理への提出は後回しになりやすい立場です。実務上、役員に対して期限どおりの提出を徹底してもらうことは、経理担当者の努力だけでは難しい場面が少なくありません。
取引先からの支払請求書
支払請求書には、別の難しさがあります。
その月にどのような支払いが発生するのかを、経理担当者が自分だけで把握することはできません。発注や契約を行った担当者しか、その事実を知らないためです。
社内で共有されていないと、次のようなことが起こります。
- 数か月前の取引に関する請求書が、後になって郵送で届く
- 届いた時点で、過去月の費用計上が漏れていたと判明する
- 支払期限を過ぎており、取引先へ謝罪が必要になる
- 何が届いていないのか、経理側では気づく手段がない
最後の点が特に重要です。届かない資料は、届いていないこと自体に気づけません。
「期限を守らせる」発想だけでは解決しにくい
資料回収の改善策として一般的に挙げられるのは、提出期限を明確にすることや、社内ルールを徹底することです。
これらは前提として必要です。ただし、いずれも相手の行動に依存する仕組みであるため、相手の行動が変わらなければ機能しません。特に役員に対して、経理担当者がルールを徹底させることには限界があります。
そこで、発想を切り替えます。
- 相手に提出させることを目標にしない
- 経理側が状況を把握できる状態を作ることを目標にする
- 「提出されるのを待つ」から「経理側から取りに行く」「事前に知っておく」へ変える
提出そのものを求めるのではなく、提出されなくても経理が動ける状態を作る、という考え方です。以下、資料ごとに具体的な方法を見ていきます。
集まらない資料への具体的な対処
カード明細は経理側で取得する
法人カードの多くは、インターネットの会員サイトから利用明細をダウンロードできます。
つまり、利用日、金額、利用先については、本人の提出を待たなくても経理側で取得できます。まず明細を取り込んで計上の枠組みを作り、そのうえで内容が判断できない支出だけを絞り込んで本人に確認します。
この順序にすると、確認事項は次のように変わります。
- 変更前:使用した経費をすべて申告してもらう
- 変更後:明細のうち、内容が判断できないものだけを確認する
相手に依頼する量が減るため、回答も得られやすくなります。
レシートは「その場で撮ってもらう」運用を検討する
レシートの原本回収が難しいのであれば、原本の回収を前提としない運用を検討します。
経費精算システムの多くは、スマートフォンで撮影した画像を添付して申請できます。使用した直後にその場で撮影してもらう運用にすれば、帰社や月末を待つ必要がなくなり、後回しにされにくくなります。
ただし、書類の電子化にあたっては電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件があり、要件を満たさない場合は原本を廃棄できません。要件は改正されることもあるため、導入前に国税庁の公表資料と、利用するシステム提供元が示す対応状況を必ずご確認ください。判断に迷う場合は税理士などの専門家へご相談ください。
システムを検討する際の確認ポイントは、次のとおりです。
- 電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件に対応しているか
- スマートフォンでの撮影と申請に対応しているか
- 使用している会計ソフトと連携できるか
- 承認フローを自社の体制に合わせて設定できるか
- 経理以外の人が迷わず使える操作性か
最後の点は軽視されがちですが、実際には重要です。操作が複雑なシステムは、結局使われずに提出されない状態へ戻ってしまいます。
請求書は「日々の共有」で先回りする
請求書は、届いてから対応するのでは遅くなります。届く前に、何が発生しているのかを経理が知っている状態を作ります。
具体的には、発注や契約が発生した時点で、その都度経理へ共有してもらう仕組みを作ります。共有手段は、チャット、共有シート、社内システムなど、社内で日常的に使われているもので構いません。
共有してもらう項目の例は、次のとおりです。
- 取引先名
- 発注内容
- 金額(確定していなければ概算でよい)
- 請求書が届く予定の時期
- 支払予定月
- 担当者名
この仕組みで重要なのは、共有を特別な報告業務にしないことです。「月末にまとめて提出する報告書」にすると、それ自体が新たな未提出資料になります。発注したらその場で一言共有する、という形で日常業務の中にルーティンとして組み込みます。
事前に把握できていれば、経理側の動き方が変わります。
- いつ、どの取引先から、どの程度の請求が来るはずかを事前に持てる
- 予定の時期に届かなければ、経理主導で担当者や取引先へ確認できる
- 未着の請求書に気づける状態になる
- 資金繰りの見通しを立てやすくなる
相手に期限を守らせるのではなく、経理が主導して確認できる状態を作る、という点がこの方法の要点です。
未提出資料と作業状況を可視化する
月次・年次のタスク表を作る
必要な資料と作業をタスク表にまとめ、進捗を確認しながら進めます。ガントチャート形式にすると、いつ何を行うかが視覚的に分かりやすくなります。
タスク表に入れる項目の例は、次のとおりです。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 作業名 | 資料回収、仕訳入力、残高確認など |
| 頻度 | 毎月、毎年、随時 |
| 担当 | 経理、営業、総務など |
| 予定時期 | 何営業日目に行うか |
| 依頼先 | 資料を出してもらう相手 |
| 受領状況 | 未依頼・依頼済み・受領済み |
| 実施状況 | 未着手・作業中・完了 |
受領状況を一覧で見られるようにしておくと、誰から何が届いていないかがすぐに分かり、催促もしやすくなります。
日報を兼ねて工数を記録する
タスク表に、その日どの業務を何時間行ったかを記録する欄を設けると、日報も兼ねることができます。
工数を記録しておくと、次のことが分かるようになります。
- 想定より時間がかかりすぎている業務がどれか
- 前年度の同じ時期に、どれだけの工数がかかっていたか
- 繁忙期がいつ、どの程度の負荷で訪れるか
- 担当者が交代する際に、引き継ぐ作業量がどの程度か
この記録は、業務改善を提案する場面でも役立ちます。「忙しい」という説明では検討されにくい内容も、実際にかかっている時間を数字で示せれば、システム導入や外注、人員配置の判断材料になります。
会計事務所と事業会社では、資料回収の難しさが違う
同じ資料回収でも、会計事務所と事業会社では、気を遣う場所が異なります。
会計事務所の場合
会計事務所には、関与先からある程度整理された資料が届きます。回収そのものよりも、受け取った後の確認が中心になります。
- 必要な資料がすべてそろっているか、抜け漏れがないかを最初に確認する
- 複数の関与先を並行して担当するため、期限を守ることに徹する
- 資料の確認時に、最近変わったことがないかをあわせて聞いておく
最後の点は効果があります。資料を確認するタイミングで、取引先の増減、契約内容の変更、人員の入れ替わりなどを聞いておくと、後から個別に問い合わせる手間を減らせます。
そのためには、事務的なやり取りだけでなく、ある程度の世間話も必要になります。制度変更や体制の変化は、雑談の中から出てくることが多いためです。
事業会社の場合
事業会社の経理では、資料を回収するのは自分自身です。依頼する相手も社内の人間になります。
そのため、社内での関係構築ができているかどうかが、回収のスピードに直接影響します。関係構築も業務の一環と考えたほうが、結果的に月次決算は早くなります。
実務上、意識しておきたい点は次のとおりです。
- なぜその資料が必要なのか、理由を添えて依頼する
- 相手の繁忙期を把握し、依頼するタイミングを調整する
- 入力フォーマットを経理側で用意するなど、相手の手間を減らす
- 提出してもらったら、その旨を返す
両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 会計事務所 | 事業会社 |
|---|---|---|
| 資料の入手経路 | 関与先から届く | 自分で社内から集める |
| 資料の状態 | ある程度整理されている | 整理されていないことが多い |
| 主な作業 | 抜け漏れの確認 | 回収そのもの |
| 重視される点 | 期限を守ること | 社内の協力を得ること |
| 情報収集の方法 | 資料確認時のヒアリング | 日常的な業務内での共有 |
それでも間に合わないときは仮入力で進める
仕組みを整えても、資料が締め日までに届かないことはあります。
その場合は、締め日を優先して概算額を仮入力し、月次決算を進めます。仮入力自体は問題ありませんが、仮入力した仕訳を識別できる状態にしておかないと、本来の金額が判明した際に削除や修正を忘れやすくなります。
会計ソフトのラベルやタグ、付箋などの機能を使い、「仮計上」「要確認」といった共通の目印を付けておきます。具体的な管理方法は、法人経理の月次決算の進め方|締め作業の手順とチェックリストの「仮入力の削除漏れを防ぐ方法」で解説しています。
資料回収チェックリスト
- 必要な資料と提出者を一覧にした
- 資料ごとの提出期限を決めた
- 受領状況が一目で分かる状態にした
- 法人カードの明細を経理側で取得できるようにした
- 内容が判断できない支出だけを絞り込んで確認した
- レシートの提出方法を見直した
- 電子化する場合の要件を確認した
- 発注・契約時に経理へ共有する仕組みを作った
- 共有を日常業務のルーティンに組み込んだ
- 届く予定の請求書が未着でないか確認した
- 月次・年次のタスク表を作成した
- 作業ごとの工数を記録した
- 依頼する相手の繁忙期を把握した
- 期限までに届かない資料を仮入力で処理した
- 仮入力した仕訳に目印を付けた
まとめ
資料回収がうまくいかない状態は、経理担当者の努力不足が原因とは限りません。相手の提出行動に依存した仕組みになっていることが原因である場合が多くあります。
役員のカード明細は経理側で取得し、レシートは原本の回収を前提としない運用を検討し、請求書は届く前に発生情報を共有してもらう。いずれも「提出させる」から「経理側が把握する」への切り替えです。
そのうえで、受領状況と作業工数を記録しておけば、どこで詰まっているのかが数字で分かるようになります。まずは、いま何が届いていないのかを一覧にするところから始めてみてください。

