給与の仕訳は、毎月同じ形で入力していると、つい流れ作業になりがちです。
しかし給与の仕訳には、従業員から控除し、後日納付・精算する金額が含まれています。
これらの預り金は、会社の控除方法や納付時期を整理すれば、月末時点で「いくら残っているべきか」を計算できます。あるべき残高と実際の残高を比較することで、仕訳や納付処理の誤りを発見できます。
この記事では、法人経理の実務経験をもとに、給与仕訳の考え方と、預り金・法定福利費の残高が合わないときに確認する場所を整理します。
※給与の締日・支給日、社会保険料の控除時期、加入している保険者、会社の給与規程などによって処理は異なります。保険料率、納付期限、社会保険手続きなどに関する個別の判断は、税理士、社会保険労務士、年金事務所、関係する市区町村などへご確認ください。
給与の仕訳は「支払う」だけではない
給与計算では、支給する金額から複数の項目を控除します。
- 源泉所得税
- 住民税(特別徴収の場合)
- 健康保険料・厚生年金保険料などの従業員負担分
- 雇用保険料の従業員負担分
- その他の控除(財形、社宅費、貸付金の返済など)
源泉所得税、住民税、社会保険料の従業員負担分などは、従業員の給与から控除し、会社が所定の納付先へ納める金額です。
一方、財形、社宅費、貸付金の返済などは、内容によって会計処理や支払先が異なります。
また、法令で定められたもの以外を給与から控除する場合は、賃金控除に関する労使協定などの確認が必要です。
給与から控除した金額について、控除時から納付・精算時までの期間がある場合は、月末時点で預り金などの残高が発生します。
給与仕訳の基本形
給与に関する仕訳は、給与支給時、会社負担分の計上時、納付時に分けて考えると分かりやすくなります。
給与支給時
| 借方 | 貸方 | 内容 |
|---|---|---|
| 給料手当 | — | 支給総額 |
| — | 預り金 | 源泉所得税、住民税、社会保険料の従業員負担分など |
| — | 普通預金 | 差引支給額 |
会社負担分の計上時
| 借方 | 貸方 | 内容 |
|---|---|---|
| 法定福利費 | 未払費用など | 社会保険料などの会社負担分 |
社会保険料の納付時
| 借方 | 貸方 | 内容 |
|---|---|---|
| 預り金 | — | 従業員負担分 |
| 未払費用など | — | 会社負担分 |
| — | 普通預金 | 実際の納付額 |
使用する勘定科目や計上時期は、会社の会計処理によって異なります。
会社負担分を「未払費用」ではなく「預り金」や「未払金」などで管理している会社もあります。
重要なのは、従業員負担分と会社負担分を区別し、納付後に対応する残高が解消しているか確認できる状態にすることです。
預り金を源泉所得税、住民税、社会保険料などの補助科目に分けておくと、残高確認がしやすくなります。
給与ソフトから連携すると仕訳は細かくなる
給与の仕訳は、給与集計表を見ながら手入力することもできます。自分で仕訳を入力したほうが、数字の中身を把握しやすいと感じることもあります。
一方、給与計算ソフトと会計ソフトを連携すると、次のような利点があります。
- 従業員ごとに部門を設定しておけば、部門別に仕訳を作成できる
- 基本給、残業代、各種手当などを区別して計上できる
- 給与集計表から転記する作業を減らせる
- 転記時の金額ミスを防ぎやすくなる
特に、転記による金額ミスを防ぎやすい点は大きな利点です。給与は合計金額が大きく、入力を間違えた場合の影響も大きくなります。
ただし、連携すれば確認が不要になるわけではありません。
部門、勘定科目、補助科目などの設定が誤っていれば、誤った仕訳が毎月自動で計上される可能性があります。手入力よりも、かえって発見が遅れる場合もあります。
連携後は、給与集計表の合計と会計ソフトへ取り込まれた仕訳の合計が一致しているか確認します。
会計ソフト側の連携全般の注意点は、法人カードの明細をマネーフォワードに連携する|経理が楽になる部分と、確認が必要な部分で解説しています。
預り金は「あるべき残高」を計算できる
預り金は、控除してから納付するまでの期間だけ残ります。
そのため、自社の給与支給日、控除方法、納付期限を整理すれば、月末時点のあるべき残高を計算できます。
以下は、月末締め・翌月20日支給で、源泉所得税と住民税を原則どおり毎月納付している会社の例です。
| 預り金の種類 | 4月末時点のあるべき残高 |
|---|---|
| 源泉所得税 | 4月20日支給時に控除した金額。原則として5月10日までに納付する金額 |
| 住民税 | 4月20日支給時に控除した金額。原則として5月10日までに納入する金額 |
| 社会保険料 | 前月分を当月給与から控除し、当月末に納付する運用では、納付処理後に給与分の残高が0になることがある。ただし、賞与分や納付日のずれなどは別途確認する |
源泉所得税や住民税について納期の特例を利用している場合は、複数月分が預り金として残ります。
一律に「1か月分だけ残る」と考えず、自社に適用される納付期限を基準に確認します。
源泉所得税
給与から源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として、給与を実際に支払った月の翌月10日までに納付します。
そのため、毎月納付している会社では、4月末時点で4月支給給与から控除した金額が残ります。
ただし、納期の特例を利用している場合は、1月から6月までに徴収した分を7月10日、7月から12月までに徴収した分を翌年1月20日までに納付するため、複数月分が残高として残ります。
詳しくは、国税庁「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」をご確認ください。
年末調整の進め方については、年末調整で経理・総務がやること|スケジュールと書類回収の進め方で解説しています。
住民税
特別徴収した住民税は、原則として、給与から徴収した月の翌月10日までに市区町村へ納入します。
毎月納入している会社では、4月末時点の預り金残高は、4月支給給与から徴収し、5月10日までに納入する金額と一致するのが基本です。
確認する際は、市区町村から届く「特別徴収税額の決定・変更通知書」だけでなく、給与計算ソフトの従業員別控除額と納入予定額も照合します。
通知書の月額合計、給与から実際に控除した金額、会計上の預り金残高が対応しているかを確認します。
退職者の一括徴収、税額変更、入社時の特別徴収への切替などがある場合は、通知書の通常月額と異なることがあります。
また、一定の要件を満たして納期の特例を利用している場合は、複数月分が預り金として残ります。
差額がある場合は、誰の、どの処理によって差が生じたか説明できる状態にしておきます。
社会保険料
日本年金機構によると、厚生年金保険料などの納付期限は、納付対象月の翌月末日です。
また、当月に支払う給与から前月分の標準報酬月額にかかる保険料を控除できます。
たとえば、3月分の社会保険料を4月20日支給の給与から控除し、4月末に納付する運用では、納付処理後に給与分の預り金残高が0になることがあります。
ただし、社会保険料の残高は必ず0になるわけではありません。
- 月末が土日祝日で、引落しが翌営業日にずれている
- 賞与から控除した保険料が翌月末の納付対象になっている
- 入退社や休職に伴う調整がある
- 控除した金額と納付額に差がある
- 会社が当月分を当月給与から控除する運用をしている
自社の控除時期と納付対象月から、あるべき残高を計算することが重要です。
詳しくは、日本年金機構「厚生年金保険料等の納付」をご確認ください。
残高が合わないときに確認する場所
預り金や法定福利費の残高が合わない場合は、主に次のような原因が考えられます。
- 給与仕訳または納付仕訳の二重計上・計上漏れ
- 納付時の入力金額の誤り
- 給与計算ソフトと会計ソフトの連携設定の誤り
- 源泉所得税や住民税の納期の特例
- 賞与にかかる保険料
- 月末休日による引落日のずれ
- 定時決定・随時改定の反映漏れ
- 入退社や休職に伴う調整
- 端数処理や健康保険組合の負担割合
- 補助科目や従業員コードの設定誤り
納付時の入力ミス
最初に、実際の納付額と会計ソフトへ入力した金額を確認します。
納付書、口座振替額、インターネットバンキングの出金額と、会計ソフトの納付仕訳が一致しているか照合します。
納付仕訳そのものが未入力になっている場合や、同じ納付を二重に入力している場合もあります。
給与計算ソフトからの連携ミス
給与集計表の金額と、会計ソフトへ連携された仕訳の金額を確認します。
部門、勘定科目、補助科目の設定が異なっていると、合計金額は一致していても、確認したい補助科目の残高が合わない場合があります。
給与ソフト側の集計表と会計ソフト側の仕訳を、項目別に照合します。
控除設定の反映漏れ
健康保険料や厚生年金保険料は、標準報酬月額などをもとに計算します。
定時決定や随時改定の結果を給与計算ソフトへ反映していないと、実際に納付する保険料と、給与から控除した金額に差が生じる可能性があります。
毎月少しずつ差が積み上がると、原因の特定に時間がかかります。結果を反映する時期と担当者を決め、担当者が変わっても引き継がれる状態にしておきます。
標準報酬月額の決定や改定に関する具体的な判断は、年金事務所や社会保険労務士へご確認ください。
入退社や休職に伴う処理
入社、退職、休職などがあると、社会保険料の控除開始・終了時期や納付額が変わります。
手続きや給与計算ソフトへの反映が遅れると、納付額と控除額の対応関係が崩れることがあります。
後日手続きが完了しても、給与や会計仕訳が自動的に修正されるとは限りません。必要に応じて、控除額の調整と会計仕訳の修正を行います。
健康保険料と厚生年金保険料は、基本的に従業員と事業主が負担しますが、加入している健康保険組合や端数処理などによって、納付額の正確な半分にならない場合があります。
また、子ども・子育て拠出金は事業主が全額負担します。
単純に「納付額の半分が預り金」と判断せず、従業員別の控除額と会社負担分の内訳を確認します。
入退社処理の遅れは従業員本人にも影響する
預り金残高が合わないことは、経理側だけの問題として扱われがちです。
しかし、入退社や休職に伴う処理が遅れている場合は、従業員本人にも影響する可能性があります。
- 給与から控除する金額が本来の金額と異なる
- 後から複数月分を調整することになり、手取り額が大きく変動する
- 資格取得や資格喪失の記録が正しく反映されない状態が続く
将来の年金額などへの具体的な影響は、処理内容や訂正状況によって異なります。手続きについては、社会保険労務士や年金事務所へご確認ください。
給与計算システムを使っている場合は、従業員ごとの控除額を集計し、実際の納付額との差を人単位まで確認できます。
残高差額を合計金額だけで追うよりも、従業員ごとの内訳に戻って確認したほうが、原因を早く特定できる場合があります。
給与関連の残高チェックリスト
月次決算では、月末時点の残高試算表や補助元帳を使って、次の項目を確認します。
- 預り金を源泉所得税、住民税、社会保険料などに区分している
- 源泉所得税の残高が、自社の納付予定額と一致している
- 源泉所得税の納期の特例の有無を確認した
- 住民税の残高が、給与から実際に控除した金額と一致している
- 住民税の決定・変更通知書と給与計算ソフトの金額を照合した
- 住民税の納期の特例の有無を確認した
- 社会保険料について、自社の控除時期と納付対象月を確認した
- 社会保険料の残高が0でない場合、その理由を説明できる
- 賞与にかかる社会保険料が含まれていないか確認した
- 月末休日による引落日のずれを確認した
- 納付書や口座振替額と会計ソフトの納付仕訳が一致している
- 給与集計表と会計ソフトへ連携された仕訳が一致している
- 定時決定・随時改定の結果を給与計算ソフトへ反映した
- 入社、退職、休職などの処理を給与計算ソフトへ反映した
- 給与や保険料の調整仕訳が必要か確認した
- 法定福利費が前月から大きく変動していないか確認した
- 変動がある場合、入退社、賞与、料率改定などの理由を確認した
月次決算全体の流れは、法人経理の月次決算の進め方|締め作業の手順とチェックリストで解説しています。
まとめ
給与の仕訳は毎月似た形になりますが、預り金については、給与の支給日、控除方法、納付期限から月末時点のあるべき残高を計算できます。
源泉所得税と住民税は、原則として翌月納付分が残ります。ただし、納期の特例を利用している場合は、複数月分が残高として残ります。
社会保険料は、前月分を当月給与から控除し、当月末に納付する運用では、納付後に給与分の残高が0になることがあります。ただし、賞与、月末休日、入退社などがある場合は別途確認が必要です。
残高が合わない場合は、納付時の入力ミスだけでなく、二重計上、連携設定、定時決定・随時改定の反映漏れ、賞与、入退社なども確認します。
合計金額だけを追うのではなく、税目別、保険料別、従業員別の内訳まで戻れる状態にしておくことが、原因を早く見つけることにつながります。
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